破綻したシステムががん研究を遅滞させている

ニューヨーク── 乳がん患者支援団体のSHAREが主催したプログラムに参加した専門家たちは、利益相反は、報告されてもされなくても乳がん研究に重要な進展をもたらそうとする意欲を取り違えた破綻したシステムの一部にすぎない、という意見に一致した。

「利益相反開示の問題は重要ではあるが、問題の主点ではない。私にとって一番の問題は驚くべき額の金銭がやり取りされていることだ」とワシントン全米乳がん連合会(National Breast Cancer Coalition)会長のフラン・ヴィスコ女史は意見を述べた。

彼女は乳がん研究資金が女性の命を救うために十分に使われておらず、病院や医師や製薬会社の利益を上げるために使われていると主張した。

「研究と治療における利益相反:乳がん患者の知るべきこと」と題されたこの討論会で、他の2人の専門家は彼女の意見に大方同意した。それぞれが順番に、企業と協力している医師と病院が得る多大な金額は彼らの収入を増やすためで、研究の成果を上げるためではないと語った。

「この大金の大部分がわずかばかりの成果を出すために使われ、研究の成果とそれに支払われる金額との間には何の関連もない」と生命倫理学者でアリゾナ州立大学テンピー校の社会革新部教授の Dr. ロバート・クック-ディーガンは語る。

非営利団体の施設で働く医師/科学者がスタートアップへの投資の機会を与えられたり、製薬会社の理事の役職や、コンサルタントや他のサービスに対して直接に支払いを受ける時に利益相反を避けることができるかどうかはさておいて、誤った研究意欲の方がより大問題であると彼は意見を述べた。大きな金銭的報奨は生命を助けるための薬に限られるべきであるのに、市場潜在力があればどんな薬にも支払われている、と彼は言った。

現行のシステムは、研究者が連邦政府の補助金で開発した知的財産のパテントを所有することができるという、1980年のバイ-ドール(Bayh‐Dole)条例に端を発しているが、Dr. クック-ディーガンはそれを「小魚・魚・サメ」のシステムとして説明した。小魚である研究者は可能性のある新しい治療法の研究をするために、魚である利潤追求のスタートアップや他の企業に援助を求める。もし薬剤が成果を示せば、サメである投資家の協力を得る。

新治療薬がサメを引きつけると、新しい効果的な治療法に対する期待はそれがもたらす利益に対する期待によって影が薄くなる、それは新薬を市場に出すための臨床開発に要する多大な投資の元を取らなければならないからである。もし薬が売れるとされれば、臨床的な効果は大してなくても、それは成功と見なされる。

「この2年間に食品医薬品局が認知したがんの新薬は20ほどであるが、これらによって増加したがんが再発していない生存期間の中間値はだいたい3か月である」と、米国がん協会の医務部長を退任した後、最近ジョンズ・ホプキンス大学キメルがんセンターに就任したDr. オティス・W・ブローリーは語った。

Dr. ブローリーは他の2人の専門家に声を合わせて「システムは破綻している」と宣言した。「大発見よりも小さな進歩に焦点を合わせた臨床開発に参加する研究者にとって、金銭の流入だけが意欲を起こさせるわけではない。Dr. ブローリーによれば、規制のない研究資金を入手することは現在大変困難で、企業との協力は研究資金を得るためだけでなく、その分野で昇進するために必要なことである。主要がんセンターでの研究は今でも最高のスタンダードでなされているが、非営利組織と営利企業との間には避けがたい持ちつ持たれつの関係がある。

「一般の患者に薬を処方する医師にはおそらくこの利益相反はないが、彼らはこうした利益相反のある人々に影響されている」と彼は言った。

SHARE の利益相反に関する討論会は、プロ・パブリカ(ProPublica)とニューヨーク・タイムズの両紙にメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの医務部長、Dr. ホセ・バエルガがニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌などに発表した論文に規定の利益相反開示をしなかったという一連の記事が掲載された後、開催された。

しかし、企業との金銭的関係を開示し損ねたという点についてはSHAREの討論会では小問題として扱われた。イエール大学の分子・細胞・発生生物学の非常勤教授、ロバート・バゼル博士は討論会の司会を務めたが、開会の挨拶で「問題はずっと深いところにある」と話した。

記事では “法律にふれるようなこと” を暴露することはなかったが、大金がシステムの中でどう動いているかということに、大勢の人々の目を向けさせるきっかけになったと、長年NBCニュースの科学・健康部の主任レポーターを務めているバゼル博士は言う。特に、利益追求が科学的な目的を堕落させているのではないかという懸念を高めたと述べ、さらに「いろいろな科学に大金が落とされてきたが、腫瘍学においては、特にはなはだしい傾向にある」と語った。

生命倫理学者も含めて、全員が利益そのものが問題だと言っているわけではない。大きな報酬は生命を救う発見に対して当然のものであるかもしれない。しかしシステムは大きな報酬を必ずしも生命救済の発見だけに限っているのではない、ということに全員が同意した。

「生命を救済する薬剤に焦点が当てられているわけでなく、より多くの薬剤を創ることに当てられている」とヴィスコ女史は言い、Dr. クック-ディーガンの報酬システムに関する意見に同意した。現行のシステムは、たいして臨床効果のない新薬を開発した科学者や医師に多大な報酬を与えていると、彼女は続けた。以前の標準に比べて病気の進行のない生存期間を上げることができるとなれば、たとえわずかな統計的、臨床的な効果であっても、薬は処方され利益がもたらされる。

ヴィスコ女史は、全米乳がん連合会の会長に就任するまでは弁護士として活躍し、連合会に勤務し始めた当初は研究資金集めを第一目的としていた。乳がん研究者全体が何を一番必要としているかを判断し、そのために連合会が援助できることを願っていた。しかし彼女のものの見方は変わった。

「以前の私は、私たちは協力者であるべきだと考えていましたが、今は私たちが実権を握るべきだという結論に達しました。支持団体で教育を受け、訓練された患者の支持者たちが実権を握るべきです。なぜなら私たちの唯一の目的は命を救い、乳がんを撲滅することだからです」とビスコ女史は語る。彼女は、国立がんセンター(National Cancer Institute)のような研究施設でさえ、優先事項の基本的な見直しをせずに、単に研究資金を増やすことはもはやありえないと思っている。

Dr. ブローリーによれば、医学界の指導者の多くは問題を認めており、たとえば米国臨床腫瘍学会は最近の報告で、あまりにも多くのがんの臨床治験がわずかな進展をしか得ていないことに懸念を抱いていることを挙げている。 だが彼も他の2人同様、報酬が誤って配布されていることは認めている。

「我々は大きな発見を目指すように臨床治験を企画してはいない」とDr. ブローリーは言う。しかし彼はまたシステムが複雑であることにも注意を喚起している。以前の標準に比べて大した効果を持たなくても、新薬がよく売れる理由の一つは患者自身がそれを求めるからである。消費者への直販市場は、効果がごくわずかだとしても、あるいは全く効果のない薬でも売ることができる。

「私は患者が求めるべきでない薬を入手しているのを見ている」と彼は言い、臨床医は、その治療が高価で効果のない時でさえ、必死の患者に何か手助けを与えなくてはという圧迫を感じてしまうと語った。

全体的に、メモリアル・スローン・ケタリングの組織改革においては、倫理的責任の不履行である金銭的な関係そのものよりも、多額の金銭的な関係を開示することを怠ったことが問題だったとDr. ブローリーは言い、研究者と企業との関係は元来間違っているものではないと語った。2018年11月にニューヨーク・タイムズ紙が掲載した記事によると、Dr. ブローリーは米国がん協会が企業と提携したパートナーシップに対して「ろうばいして」退職したというが、彼はその記事を認めも否定もしていない。

主要研究施設における利益相反に関して、Dr. クック-ディーガンは開示だけで充分であるのかについて、より慎重な意見である。企業との緊密な協力は、メモリアル・スローン・ケタリングの研究者の1人がニューヨーク・タイムズのインタビューに応えて主張しているように、臨床的に価値があるという前提は認めているが、その関係があまりにも緊密になりすぎないように一線を画すべきではないのかと問題を提起している。

「企業の理事として務める必要があるのか? 臨床的な決断を下すのに影響を与えるような金銭的な関係は必要なのか?」と彼は問う。

Dr. クック-ディーガンは他の専門家同様、システムを改善する最良の方法が何なのかをまだ把握していないが、改善することは可能だと信じている。

「我々は転換点を迎えていると思う。長い間システムは軌道を外れていたが、その症状が相当に重症になってきた今、我々は注意を払うようになってきている」その動きの一つは両方の政党が「薬の価格に対して法案を提案していて、それは我々が討論している問題に直接に関わっている」と話した。

この翻訳はボランティアが行ったものです。腑に落ちない点がありましたら下記の原文をお読みください。

MDedge <www.mdedge.com> “Progress in cancer research slowed by broken system”