平日さんぽ:パラレルワールド

自宅から歩いて10分の所にマウントサイナイ・ベスイスラエル病院がある。建物の4階は"Cancer Center"という名称がついており、全フロアががん専門だ。 また、徒歩20分弱の場所に病院のウエストキャンパスという別館もあり、ここは抗がん剤治療専門スペースが独立して存在している。 私ががん患者になって初めて知った場所だ。でも、その場所はずっと前から存在していたはずだ。しかし、私にとってずっと自分とは無関係の場所として 無意識に認識しており、だから気づくことはなかった。その場所で起こっている日常は私には別世界の出来事だったから。 私の日常は、朝起きて、平日は会社に行き、時々走り、たまに外食し、愛犬と相方と他愛のない会話をする毎日だった。

それが、ある日を境に、そっちの世界に飛ばされた。 それはまるでパラレルワールドみたいだ。

私のがんは、宣告日12月31日に突然なったものではない。 がん細胞というものはたぶん3年以上前ぐらいからあったようだ。つまり、私は厳密に言えば、ずっと前からがんだったんだ。 だけど、気づかなかったから、知らなかったから、私はがん患者ではなく、一般的どころか結構ヘルシー方だと思って生きていた。 がんのイメージって、”顔色悪くなり、急にげっそり痩せて、周りからも心配される” って思っていたから、よもや、毎年、マラソンでPRが取れる肉体ががんだとは全く想像出来なかった。 医者から宣告されても、結果の説明を受けても、理性では理解出来ても、ずっと夢を見ているようにしか思えなかった。

こんなに元気なのに? まったく自覚ないのに? 私、本当にがんなの?

それが現実だと証明するのは検査結果というもので、それを信用するしかないから、病院で面談や様々な検査を受けた。 病院から帰る度に、どんどん私は心身ともに疲弊していった。 病気や怪我を治す場所が病院だと思っていたけど、病院に行く度に病気になっていく感覚。これががんなんだ。とても恐ろしいと思った。 元気だった自分が、どんどん病人になっていく。

あの日、知らなければ、私はまだ元気で、会社に通い、走っていただろう。 だけど、あの日、知ってしまったから、だから、私はこっちの世界に飛ばされた。 あっちの世界とこっちの世界は実は遠くない。隣り合わせに、平行して、進んでいる。

今の私はこっちの世界の住人として、昔いた世界を眺めることができる。 すぐ隣にその世界は存在していて、いつか私は戻ると信じている。 だけど、戻った時に気づくだろう。 ああ、ここもやはり別世界なのだと。

あんじー