平日さんぽ:他人に告げるなかれ

「上司にも理由を話す必要ありません。」

会社の人事部・ベネフィット担当者に言われた言葉だ。

癌治療の為、長期休暇を取る必要があり、相談をした際に念を押すように何度も言われた。

「これは貴女のパーソナルな問題だから、私以外には言わないように。上司にも云う必要ないのよ。”何月何日から休みます。”それだけでいいの。長期休暇届けはちゃんと受理されるし、必要な手続きは私が全部担当するから、貴女は何も心配はいらないわ。貴女は自分のことだけを考え、しっかり治療して、そして元気になった時に戻ってくればいいのよ。」

「It’s not your business(あなたには関係無いでしょ。)」

って、ことか。まぁ、確かに私の病気はパーソナルな問題ではある。アメリカでは、有給を取る権利があり、その理由を話す必要もないし、会社(上司)が問うことも禁じられている。

でも・・・、と日本人の私は思うのである。いきなり、長期休まれたら一緒に働くメンバーが大変だろうなぁ、と。

治療を終え、戻ってくるにしても、ウェルカムで迎えられたいと思う。その為には、一緒に働くメンバーの理解は不可欠である。

自分がメンバーの立場なら、理由を知って協力するのと、知らないで仕事を押し付けられるのでは気分的に大きく違う。

上司だって、前もって分かれば、仕事の割り振りもできるし、引き継ぎも可能だ。仕事への支障は出来るだけ減らしたい。

それこそ、パーソナルな問題なんだから、それを会社に持ち込むのは極力さけたい。例え、それは私の権利だとしても。

そして、もう一つ、私の中で、”なんで隠さないといけないのだ?”という疑問もあった。

確かに、自分がクラジアミなんていう性病にでも罹ったら、誰にも知られたくないであろう。それは何となく後ろめたいような、恥ずかしいような

気持ちがあるからだ。しかし、癌は私に非は全くない。また、伝染病でもない。それなら、なんで隠さねばならぬのか。

強いて言えば、”乳がん”という、セクシャリティを感じさせる部位の癌だからであろうか?

しかし、いくらなんでも、言われた方もそのあたりは気をつけるものだろう。病気なんだから。

そんな気持ちから、直属の上司に話した。「会社からは話さないようにと言われましたが、自分の意志でお伝え致します。」と、前置きをして。

直属上司はすぐさま事情を察してくれ、繊細な対応をしてくれた。部内メンバーもみんな理解を示してくれ、長期休暇まで仕事に関しての物事はスムーズに進んだ。

しかし、ベネフィット担当者が言った、「誰にも話さないように。」の意味も分かった。

世の中には色んな人がいる。私が期待するような反応や対応をしてくれる人ばかりではないのだ。

”人の不幸は蜜の味”なんて言葉もある通り、「ねぇねぇ、知ってる?」と同情したフリをしながら、嬉しそうに噂をばら撒くタイプもいた。

一番最悪だったのは、「大変だね。で、どっちの胸?両方?腫瘍は何センチ?」と聞いてきた日本人男性駐在員だ。

そんなの聞いてどうする? 私のどっちの胸が切られるのか、両方失くすのか、なんで知りたいのだ?

この人は、心配なんてしていない。自分の好奇心を満たしたいだけなのだ。

つまり、開示するということは、人の好奇の目に晒されるリスクも負うということだ。

セカンドレイプという言葉があるが、それと一緒だなぁ、と思う。レイプという被害にあっているのに、更に言葉で傷つけられる。

乳がんという病気を抱え傷ついているのに、更に傷つけられる。

会社からしたら、そんなありえない言葉を吐く人間がいて、その言葉に反応し会社を訴える人間がいるから、「誰にもいわないように。」となるんだろう。

実際、私もそれ以来、開示には慎重になった。

しかし、癌告知から3ヶ月が過ぎ、乳がんという病気を知り、これは多くの人が知るべき病気なのではないか、と思うようになった。

特に男性に知って欲しいと思うようになった。だから、今回、この”平日さんぽ”は男性にも開示をしている。

多くの男性は、自分には関係のない病気と思っているかもしれない。

だけど、貴方の妻、パートナー、母親、娘、、友人、そして会社関係者と自分と関わりのある女性がなる病気です。

現在、アメリカで乳がんになるのは6人に1人。日本では12人に1人。

乳がんを患った女性がどんな気持ちで病気と向き合っているのか知ることで、無邪気な加害者、傍観者から強力なサポーターに変われるのです。

また、珍しいですが、男性も乳がんもある。自分とは決して関係のない病気ではないのです。

今日は、3月11日。2011年3月11日東北大震災から丸4年目だ。

4年前、私の実家石巻は甚大な被害に遭った。私の実家は被災し、父は震災後1ヶ月で亡くなった。

その時、多くの友人に助けられた。

そして、今また、私は多くの友に支えられている。そして、4年前にはいなかったパートナーが側にいる。

私はこの二つの身に降ってきた不幸から学んだことがある。

自分の不幸は他人には告げない方がいいかもしれない。

私の心を蝕む可能性があるから。

だけど、友には告げるのは悪くない。

友は決して私を傷つけはしない。

そして、私を強くしてくれるから。

あんじー